「Hyper-V」とは？ Windows標準の仮想化技術

「Hyper-V とは」一言で言うと、Microsoftが開発した「仮想化ソフトウェア」です。

特にWindowsオペレーティングシステムに標準搭載されている点で多くのユーザーにとって身近な存在です。

Hyper-Vは、専門的には「ハイパーバイザー（Hypervisor）」と呼ばれる種類のソフトウェアにあたります。

ハイパーバイザーとは、物理的なコンピューターハードウェア上で複数のオペレーティングシステム（OS）を同時に実行可能にするための層（ソフトウェアまたはファームウェア）です。

Hyper-Vの主な役割は、あなたのPCの

• CPU
• メモリ
• ストレージ
• ネットワーク

といった物理的なリソースを分割・管理します。

その上に「仮想マシン（Virtual Machine – VM）」と呼ばれる、独立した仮想的なコンピューター環境を作り出すことです。

つまり、Hyper-Vを使うことで、あなたの1台のWindows PCの中に、もう1台、あるいは複数台の仮想的なPCを作ります。

それぞれに別のOSをインストールして実行できるようになるのです。

「Windows 標準 仮想化」機能として、追加のソフトウェア購入なしにこの環境を構築できるのが、Hyper-Vの大きな特徴です。

仮想化（バーチャライゼーション）とは？ Hyper-Vの基本概念

Hyper-Vを理解するためには、まずその基盤となる「仮想化（バーチャライゼーション）」という概念を知っておく必要があります。

「仮想化とは」何なのでしょうか？

仮想化とは、物理的なハードウェアリソース（CPU、メモリ、ストレージなど）を抽象化・分割します。

ソフトウェア的に複数の独立したコンピューター環境（仮想マシン）を作り出す技術のことです。

例えるなら、1台のパワフルなコンピューターという箱の中に、いくつもの小さな箱（仮想マシン）を作ります。

それぞれの小さな箱の中で独立してOSやアプリケーションを動かせるようにするイメージです。

仮想化技術では、以下の3つの要素が重要になります。

ホストOS (Host OS)

仮想化ソフトウェア（Hyper-Vなど）を実行するために、物理コンピューター上に直接インストールされている元のOSです。

Hyper-Vの場合は、多くの場合あなたの使っているWindows 10/11やWindows ServerがホストOSとなります。

ハイパーバイザー (Hypervisor)

物理ハードウェアとゲストOSの間に入り、リソースを管理・分配する仮想化ソフトウェアです。

Hyper-Vはこのハイパーバイザーにあたります。

Hyper-Vは物理ハードウェア上で直接動作するType 1ハイパーバイザーに分類されます。

（※厳密にはWindowsクライアント版Hyper-VはHost OS上で動作しているように見えますが、実態としてはHyper-Vがより低いハードウェアに近い層で動作し、Host OSもHyper-V上で動作する仮想マシンの一種のような振る舞いをします）

ゲストOS (Guest OS)

仮想マシン上にインストールされ、ハイパーバイザーによって管理されるOSです。

• Windows
• Linux
• その他のOS

など、Hyper-Vがサポートする様々なOSをゲストOSとしてインストールできます。

Hyper-Vは、このハイパーバイザーの役割を担います。

あなたのPCのリソースを有効活用して複数のゲストOSを動作させる仮想マシンを作り出すツールなのです。

「仮想マシン作成」はHyper-Vの最も基本的な機能です。

Hyper-Vで何ができる？主な用途と活用シーン

Hyper-Vを使うことで、あなたのPCの可能性が大きく広がります。

「Hyper-V 仮想マシン」を作成することで実現できる主な用途と活用シーンをご紹介します。

「仮想環境構築」を検討している方は、これらのメリットに魅力を感じるでしょう。

複数のOS環境を使い分けたい

1台のPCでWindowsとLinuxの両方を使いたい。

Macユーザーだが、特定のWindowsソフトを使いたい場合にWindowsの仮想マシンを作成する。

Windowsの異なるバージョン（例: Windows 11とWindows 10）を同時に使いたい。

安全なテスト環境を構築したい

新しいソフトウェアをインストールする前に、検証環境として仮想マシンで試す（メインの環境を汚したり壊したりする心配がない）。

ウイルスやマルウェアの挙動を安全な環境で確認したい（※専門知識が必要）。

OSのアップデートや設定変更が、他のソフトに影響しないか確認する。

開発環境を分離・構築したい

プロジェクトごとに必要な開発ツールやライブラリが異なる場合に、それぞれの開発環境を仮想マシンで独立させて構築する（環境のコンフリクトを防ぐ）。

古いバージョンのOSやソフトウェアが必要な開発を行う。

サーバーの集約（Server OS版Hyper-V）

複数の物理サーバーで動いていたOSやアプリケーションを、高性能な1台の物理サーバー上の複数の仮想マシンに移行・集約する。

（コスト削減、管理効率向上）

これは主にWindows Serverに搭載されるHyper-Vのサーバー仮想化用途です。

古いOSや互換性の問題があるソフトを使いたい

• Windows XPなど、現在のOSでは動作しない古いOS
• そのOSでしか動かない業務ソフト

などを動かすレガシー環境として利用する。

これらの用途以外にも、Hyper-Vを使えば様々な目的で独立したコンピューター環境を柔軟に作り出すことができます。

Hyper-Vのメリット・デメリット

Windowsユーザーにとって身近なHyper-Vですが、利用する上でのメリットとデメリットを知っておきましょう。

「メリット デメリット」を理解することで、他の仮想化ソフトと比較する際の判断材料になります。

メリット

Windows標準搭載（対象エディションなら追加費用不要）

• Windows Pro
• Enterprise
• Education

といったエディションには標準で含まれています。

「Windows 標準 仮想化」として、追加のライセンス費用なしにすぐに利用を開始できます。

信頼性の高いMicrosoft製

Windowsを開発しているMicrosoft純正の仮想化技術です。

OSとの連携や安定性が高いです。

Type 1ハイパーバイザーによる高いパフォーマンス

厳密にはHost OS上で動作しますが、Hyper-V自体がHost OSより低層で動作します。

Host OS上でアプリケーションとして動作するType 2ハイパーバイザーに比べて、仮想マシンのパフォーマンスが高い傾向があります。

Windowsとの連携がスムーズ

Windowsの機能として管理されます。

他のWindows機能との親和性が高いです。

豊富な機能: 仮想マシンの作成・管理だけではありません。

• チェックポイント（仮想マシンの状態を保存し、いつでもその状態に戻せるスナップショット機能）
• 仮想スイッチ（仮想マシン同士や物理ネットワークとの接続を設定）

といった便利な機能が搭載されています。

デメリット

利用できるWindows Editionが限られる

一般的な個人向けであるWindows Home Editionには搭載されていません。

「エディション Hyper-V」の確認が必須です。

利用するにはWindows Pro以上のエディションが必要です。

他の仮想化ソフトとの共存に制約がある場合がある

Hyper-Vを有効化すると、

• 他のType 2ハイパーバイザー（VirtualBoxやVMware Workstation/Playerなど）が正常に動作しなくなる
• または設定変更が必要になる

場合があります。

UIが他のソフトより初心者には分かりにくいと感じる人も

管理ツールである「Hyper-Vマネージャー」の操作感が、他の仮想化ソフトに比べて初心者には直感的ではないと感じる人もいるようです。

ハードウェア要件が必要

• 64-bit CPUであること
• CPUが仮想化支援機能（Intel VT-xまたはAMD-V）に対応していること、
• BIOS/UEFI設定で仮想化機能が有効になっていること

など、仮想マシンを実行するための基本的なハードウェア要件を満たしている必要があります。

また、仮想マシンに割り当てる分のメモリやストレージの空き容量も必要です。

Hyper-Vが使えるWindowsのバージョン（エディション）

すべてのWindowsでHyper-Vが使えるわけではありません。

「Hyper-V Windows 10」や「Hyper-V Windows 11」など、特定のエディションにのみ搭載されています。

Hyper-VのクライアントHypervisor機能が搭載されているWindowsエディション

• Windows 11 Pro
• Windows 11 Enterprise
• Windows 11 Education
• Windows 10 Pro
• Windows 10 Enterprise
• Windows 10 Education
• Windows 8 Pro
• Windows 8 Enterprise

上記以外のエディション（例: Windows Home Edition）にはHyper-Vは搭載されていません。

ご自身のWindowsのエディションを確認しておきましょう。

Hyper-Vが利用可能か確認しましょう。

Windows Serverには、より高機能なHyper-Vの役割が搭載されています。

他の仮想化ソフト（VirtualBox, VMware）との違い

Hyper-V以外にも、PC上で仮想マシンを作成・実行できるソフトウェアはいくつかあります。

代表的なものに、

• VirtualBox（無償）
• VMware Workstation Player（個人利用無償版あり）
• VMware Workstation Pro（有償）

などがあります。

• 「Hyper-V VirtualBox 比較」
• 「Hyper-V VMware 比較」

で検索している方もいるかもしれません。

これらのソフトウェアは、多くの場合Type 2ハイパーバイザーに分類されます。

Type 2ハイパーバイザーは、Host OS上にアプリケーションとしてインストールされます。

Host OSの機能を利用して仮想マシンを実行します。

仮想化ソフト	運営元	ハイパーバイザーの種類（クライアントOS利用時）	特徴
Hyper-V	Microsoft	Type 1（厳密にはOSと密接連携）	Windows標準搭載（対象エディションのみ）、Host OSと同時に動作、高いパフォーマンス傾向、Microsoft製で安心
VirtualBox	Oracle	Type 2	完全無償、Windows/Mac/Linuxなど幅広いHost OSに対応、比較的シンプルで初心者向け
VMware	Broadcom<br>（旧VMware）	Type 2	高機能、安定性に定評、有償版は高性能・多機能、特にビジネス用途で広く利用

Hyper-VはWindows標準という点が大きいです。

他の仮想化ソフトは異なるOS上でも利用できます。

それぞれの特色ある機能を持っています。

どのソフトを選ぶかは、

• 利用したいOS
• 必要な機能
• コスト
• そして他の仮想化ソフトとの共存が必要か

などを考慮して判断するのが良いでしょう。

Hyper-Vの始め方（有効化の方法）

Hyper-Vは対象のWindowsエディションに標準搭載されています。

しかし、デフォルトでは無効になっていることが多いです。

利用を開始するには、Windowsの機能として有効化設定を行う必要があります。

「Hyper-V 使い方」の最初のステップです。

1. Windowsのスタートボタンを右クリックし、「アプリと機能」を選択します。
2. 「アプリと機能」の画面で、左側メニューまたは関連設定にある「プログラムと機能」をクリックします。
3. 「プログラムと機能」ウィンドウの左側メニューにある「Windows の機能の有効化または無効化」をクリックします。
4. 「Windows の機能」ウィンドウが表示されます。このリストの中から「Hyper-V」を探し、チェックを入れます。
5. 「OK」をクリックすると、必要なファイルがインストール・設定され、PCの再起動が求められます。
6. PCを再起動すると、Hyper-Vが有効になります。スタートメニューから「Hyper-V マネージャー」を検索して起動し、仮想マシン作成などの操作ができるようになります。

(※有効化するためには、前述の通りハードウェア（CPUの仮想化支援機能など）が対応している必要があります。)

Hyper-VはWindowsユーザーにとって身近な仮想化ツール

この記事では、「Hyper-V とは」という疑問を中心に、Windowsユーザーにとって身近な仮想化技術であるHyper-Vについて、

• その仕組み
• 仮想マシンでできること
• メリット・デメリット
• 利用できるWindowsエディション
• そして他の仮想化ソフトとの比較

までを徹底解説しました。

• Hyper-VはWindowsに標準搭載されたType 1ハイパーバイザーであり、仮想マシンを作成して、1台のPC上で複数のOS環境や検証環境、開発環境などを構築できます。
• 対象はWindows Pro、Enterprise、Educationエディションで、Homeエディションでは利用できません。
• Windows 標準機能であること、高いパフォーマンス傾向、Microsoft製による信頼性がメリットですが、利用エディションの制限や他のソフトとの共存といったデメリットもあります。
• VirtualBoxやVMwareといった他の仮想化ソフトはType 2ハイパーバイザーとして、Host OS上でアプリケーションとして動作する点で比較されます。
• 利用を開始するには、Windowsの機能から有効化設定が必要です。

Hyper-Vは、仮想環境の構築や複数OSの使い分けをしたいWindowsユーザーにとって、追加費用なしに始められる強力なツールです。

ぜひこの記事を参考に、Hyper-Vを正しく理解し、あなたのPC活用をさらに広げてみてください。

よくある質問 (FAQ)

Q: Hyper-Vは完全に無料ですか？

A: はい、Hyper-VのクライアントHypervisor機能は、Windows 10/11の

• Pro
• Enterprise
• Education

といった対象エディションを購入していれば、追加のライセンス費用なしに利用できます。

これらのエディションをお持ちであれば、無料と言えます。

ただし、Windows Home EditionからProエディションへアップグレードする場合は費用がかかります。

Q: Windows Home EditionでもHyper-Vは使えますか？

A: いいえ、Windows Home EditionにはHyper-Vは搭載されていません。

利用するには、

• Windows Pro
• Enterprise
• またはEducationエディション

が必要です。

Homeエディションで仮想化をしたい場合は、VirtualBoxなどの別の無償仮想化ソフトウェアを検討する必要があります。

Q: Hyper-Vを使うには、どのくらいのPCスペックが必要ですか？

A: 仮想マシンを実行するためには、ある程度のPCスペックが必要です。

最低限、

• 64-bit対応のCPU（仮想化支援機能対応）
• そして仮想マシンに割り当てるための十分なメモリとストレージの空き容量

が必要です。

複数の仮想マシンを同時に動かしたり、重い処理を行ったりする場合。

• CPUのコア数
• メモリ容量
• SSDストレージ

などが重要になります。

具体的な要求スペックは、実行したいゲストOSやアプリケーションによりますが、一般的にメモリは8GB以上（可能なら16GB以上）あると快適に利用しやすいです。

Q: 「仮想マシン」とは何ですか？

A: 仮想マシンとは、Hyper-Vのような仮想化ソフトウェアによって、物理的なコンピューターのハードウェア上にソフトウェア的に作り出された、独立したコンピューター環境のことです。

• CPU
• メモリ
• ストレージ
• ネットワークインターフェース

などが仮想的に提供されます。

その仮想的なハードウェアの上にOS（ゲストOS）をインストールして動作させることができます。

物理PCの中にもう一台PCがあるようなイメージです。

Q: Hyper-Vは初心者でも使いやすいですか？

A: Hyper-Vマネージャーの操作は、他の仮想化ソフト（特にVirtualBoxなど）に比べて、初心者にはやや分かりにくいと感じる方もいるかもしれません。

しかし、基本的な仮想マシン作成や起動・停止といった操作は、一度流れを覚えればそれほど難しくありません。

最初は簡単なOS（Linuxなど）のインストールから始めてみるのがおすすめです。

この記事のような解説記事や、Microsoft公式のドキュメントなどを参考にしながら進めると良いでしょう。

「Hyper-Vの使い方」に関する情報は多く公開されています。

Q: Hyper-Vと他の仮想化ソフト（VirtualBoxなど）を同時に使えますか？

A: Hyper-Vを有効にしている場合、Type 2ハイパーバイザーであるVirtualBoxやVMware Workstation Playerなどが正常に動作しない、またはパフォーマンスが著しく低下するといった問題が発生することがあります。

これは、Hyper-Vが物理ハードウェアの仮想化支援機能を占有するためです。

Hyper-Vと他の仮想化ソフトを頻繁に切り替えて使いたい場合。

Hyper-Vを無効化してから別のソフトを起動する、といった手間が必要になる場合があります。

共存に関する最新の情報や設定方法は、各ソフトウェアの公式サイトなどで確認することをおすすめします。